LXというカメラ

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10代の頃にスポーツ写真のカメラマンのバイト面接に行った時
「何使ってんの エルエックスぅ?ペンタか。 ・・・あの変な音するカメラ使ってんだ。」
と、顔色も育ちも悪そうな社員か社長か誰かが、マイルドセブンの煙を唇を歪めながら横からぷぅーっと吐き出して
「なんでF3とかF4にしなかったの、君、かわってるね」と言った。

あの歪んだ唇と吐き出した煙、何故か関東弁の言葉はすごく鮮明に覚えてる。
彼曰くの横走の変な音のするLXは、彼だけじゃなく普通の人からもそういう感じの立ち位置で見られていたカメラだ。

それは雑誌の扱いでも当時からそうで絶賛されることもなく、かといってこき下ろされることもなく
いつしか時代はAFになりそれでもずっとラインナップされて、とうとう生産中止だというときに
「いつまでも作って欲しいカメラなのに残念」などと、たぶん使ったこともないヤツに少し持ち上げられて消えた。

LXを買う金額でキャノンF-1かニコンF3が買えた。
だから余計に「何で?お前バカじゃねーの?」って理解できなかったのだろう。
こんなこと書いても今じゃみんな信じないだろうが
当時のニコン、キャノン使いはニコンキャノン以外を本当に穢多非人扱いしていた。
それを選ぶヤツ、使うヤツも同様に理解ができなかったのだろう。

プロはもちろん特にセミプロを自負する輩はそれがひどく、カーストかアパルトヘイトかと思うほどで
僕も噂には聞いていたがその面接の前に、とあることで伺った高名な藍染職人さんが重度のニコン使いで
それまで物腰やわらかくいろいろと説明をして下さってたのがカメラ話になると途端に豹変する様を見て
なんと人間わからないものだ...とびっくりしたことがあったので、あぁ、まただよ、と思ったものだ。


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当時の最高峰はファインダーが交換できるのが当たり前でありアイデンティティでもあった。
LXが出た当時の流行りはボディ内ダイレクト測光、同時期発売のニコンのF3も同じくボディ内測光。
ファインダーを交換しても受光素子はボディ内にあるために全てのファインダーでAE撮影ができるというのが売り。
今じゃ交換してまで撮影なんかもう誰もしないが。

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LXは最高峰でありながら視野率100%では無い。
これもまた100%マンセーにはこき下ろす格好の標的になった箇所である。

買う前に各社SSの展示ボディで、いろんな高級機のファインダーを覗いて僕はちょっとがっかりして考えてしまった。

ニコンもキャノンも視野率100%で緻密さは感じたんだが・・・

小さいのだ、画面が、ファインダー像が。(倍率ですね)


OM-1やMXで慣れてしまった眼と身体には、視野率100%で選ぶとこんなに小さくなるんだ・・・と
もとから視野率を最重視していなかった僕は安心してあの大きなファインダー像のLXへの想いを更に大きくした。

デフォルトのスクリーンとFA-1で十分に最高のファインダーだが、何しろペンタックス初のフラッグシップである。
実に色んなファインダーが用意されてた。
数あるファインダーの中でもとんでもなく見やすいのがパッと見が顕微鏡みたいになるコレ。

名前も倍率の数字も知らんが視界全部が昔の映画館の最前列に座ったかのような超巨大スクリーンになるものすごいファインダー。
(これとウエストレベルファインダーはLXでも視野率100%)
ただしウエストレベルの上に逆像だからローライやハッセル、二眼とかに慣れてない人はクラクラ~としてきっとまともに使えない。



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LXはネームがココにしか書いてない。前から見たらプリズムにあるPENTAXしか見えない。
すごくお洒落で奥ゆかしい、こういう感覚は後光がささねばいけないニコンやキャノンには真似ができなかっただろう。

LXはスペックでは当時からそれほど大したことは無いし、フィルムを入れないで空シャッターだけでは全くわからない。
でも、フィルムを入れ、実際にシャッターを押して、そして巻き上げる。。。
そうすると、このカメラのすごさがわかるだろう。
滑らかさは群を抜く。
例えて言えばあのジャリジャリ感覚ながらも長年故障もせず健気に動くMXに、これでもかと言う程ベアリングをいっぱい詰め込んだような感じ。

そして最後まで撮り終えた後にチリチリチリチリ~と巻き戻す。
この時にも他では味わえない超精巧精密さを味わえる。
中身のことはさっぱりわからなくても、指先に伝わるあの感じはLX使いだけが味わえるウルトラシルキーフィーリング。

これを知ると他は砂が最初から噛んでるような、ギアの山がわかってしまうような粗雑感があって全てが冷めてしまう。

巻上げ巻き戻し系のこの類を見ない精密感は、他のどのカメラでも味わえたことはない。
程度の良いライカM3のダブルストロークは近いが、ニュルゥっと滑るようなあの感じはまた少しジャンルが違う。
LXのカチッと感がライカのそれには無い。強く扱うといとも簡単に壊れそうな儚い感じがある。それはそれで良い。

LXは滑らかでいて頑丈極まりなく、よっぽどガサツで荒い使い方をしない限り壊れそうにない。
しかしカメラ自体の精度が良いと使っていて感じると、人間は不思議と「良いものだ」と感じ、丁寧に扱うようになる。
たぶんそれが人間として意識しないでも自然な行為であろう。
だから、カメラだけでなく工業製品というのはあるレベル以上のものでないといけない。

フィルムカメラは手動操作が多く、その時のフィーリングがすごく大事だしそのカメラの個性であり味だ。
このカメラはいろんな面で損をしてきたような気がするが、ずーっと大事に使っているヤツはたくさんいると思う。
LXはそういう他を貶さず静かに愛でてくれる人のところで、いつまでも幸せに過ごすカメラなのだ。



で、その藍染職人さんが「どんなカメラが欲しいと思ってるの?」と僕に聞くので(もうややこしいので持ってないフリをした)
「35mmならライカM3、ブローニーならローライかハッセル」と言うと
これまた饒舌になり褒めちぎって僕もいつか買おうと思っているんだと言った。
ちょっと面白くなった僕は「タムロンってどうなんですか?」と聞いてみたら 
ほんとに漫画みたいな呆れた表情をして鼻から息を蒸気機関車のように出しながら
あんなのレンズじゃないっ!!!!
と、本気度いっぱいで少し大きな声で教えてくれた。


もうすっかり懐かしい10代終わりの頃の話である。

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by shonencamera | 2013-04-27 06:14 | PENTAX LX | Comments(18)
Commented by 脱力 at 2013-04-28 00:46 x
もう少し上の世代には、PENTAX(というかASAHI)使ってますっていうと、喜んでくれるんですけどね。

まぁ、重度のニコン使いには、何を言っても無駄ですけど(苦笑)
Commented by shonencamera at 2013-04-28 02:42
そうだね、ペンタックスってやっぱり「旭ペンタックス」だよね。
67プリズムもPENTAXだけより昔のロゴの方がしっくりくるし。
熱狂的信者は気持ち悪いけど、本人はすごく幸せなんだろね。
Commented by 脱力 at 2013-04-28 14:54 x
『君、かわってるね』
というのと、
『君、わかってるね』
というのが、紙一重だと今回の日記で分かりました(笑)
Commented by mos at 2013-04-28 17:45 x
仕事で使うカメラ、趣味で使うカメラ、とかいろいろあるとは思うけど、やはり自分の手とハートにしっくりくるのが一番でしょうね。手元みないでも使えちゃう、みたいな。

被写体と自分の心の間にある薄ぼんやりした壁みたいなのがなくなってしまうような(うまくいえませんが)、そういう器材に出会えることは幸せだと思うんですよね。

Commented by 脱力 at 2013-04-28 21:08 x
しっくりくるのがキヤノンだったオイラは勝ち組なのか負けなのか…。

でもしっくりくるのも、5D2くらいまでで、最近のキヤノンには何も感じませんね。

なんか、こうしろ!というキヤノン様のお声が聞こえません。

デジタル一眼で例えるなら、EOS20D、あるいはEOS5Dのような、ブレイクスルー的な商品はもうキヤノンからは期待できないんですかね?

さみしい限りです。
Commented by shonencamera at 2013-04-29 01:58
>mosさん 
単車でもそうで、走りや撮影に集中していくとまるで自分の手足のようになる、そういうモノがそれぞれ人に合ってるということであり、それが自分にとって良いモノとのめぐりあいなんでしょう。もちろんそれには常に自己の向上を目指すというものが不可欠ですが。

>脱力さん
たまたまLXに惚れて、手に入れて使ったら尚一層惚れた。
脱力さんにはそれがキャノンであり、あの職人さんにはそれがニコンだった。勝ちも負けも無く造り手の心意気までをも汲み取れるくらい使い、それに長け、大切にするのが大事。あまりにも度を越す惚れ具合をすると少し滑稽なのは先人が教えてくれているからほどほどにと。

デジタルのキャノンはここまでの進化には無くてはならぬ存在でした。
今からのデジタルにもそういう存在であって欲しいですね。
ただいつの間にかAPS-Hを捨てたキャノンはいずれフルサイズだけという思惑があるような気がしてしまいます。
いずれにしても、このまま黙ってはいないでしょう、ご安心召されい(^^)
Commented by letsgo_M at 2013-05-03 20:57
LX、自分にとって大切なカメラです
2月に落下させメーカーに修理を依頼しました。
まだ受け付けてくれました
感謝、感謝
惚れたカメラがあるって、幸せな事だと思います
Commented by shonencamera at 2013-05-03 22:16
修理してまでも使いたい、それほど大切だ、と思える気持ちは今どき貴重なものになりましたね。
修理うけつけるメーカーも良いです。
Commented by ありま秀丞 at 2013-07-23 19:12 x
フレクサレットの件ではお世話になりました。あれから何を血迷ったかPENTAX 6x7を買ってしまい、PENTAX 645、MX、SPと順調にかぶれてついにLXまでやってきました(笑) ずっとニコンな人だったのにこの歳になってまさかという感じです。しかしオールドタクマーの写りは良いですね…
Commented by shonencamera at 2013-07-24 03:30
おぉ(笑)確かに血迷っての表現がピッタリかと思いますが、67のレンズも35mmのレンズもペンタックスのレンズには一貫した写りがありますから、ずぶずぶと気がつけば「あらタイヘン」というのも仕方ないことだと思います、はい。
しかしずっとニコンだとすると全く正反対の写りなのによくこちら側にお越しくださいましたね、ペンタックスはボディもかわいく角が面どりされておりコンパクトで手に馴染みます。LXまで行き着いてしまうともうそんなのも言うまでもなく実感されてますよね。オールドタクマーから☆レンズまでいろいろ面白く楽しめます、是非いっぱい末永くハマりまくってください。
Commented by ありま秀丞 at 2013-07-25 09:34 x
ありがとうございます。まずは6x7用105mmタクマーの写りに驚きました。6x7は大きいですが、645と135判シリーズはどれもコンパクト、特にMXは信じられないぐらい小さい(笑) それに何と言ってもニコンに比べるとペンタックスは財布に優しいのが良いです。
Commented by shonencamera at 2013-07-26 00:13
僕はただのペンタ好きなのですがコメント読んでて嬉しくなります。こちらこそありがとうございます。
MXからとっても小さくなり、それがAFのMZ-3くらいまで続くペンタ。デジでもそれは若干名残がありますね。Mからの35mmレンズは高価なモノもありますが、今はなんといっても6x7の大暴落が凄まじく、そこそこのボディとレンズがコンデジみたいな価格で手に入る「どないやねん」って時代です。400円そこそこの120アクロスで撮ると、デジ全然要らんやん!って画質が撮れてしまいますので非常に面白い対比ですね。
お財布にも優しく、家庭円満。ただし夏の日中の67行脚は苦行に近いのでお気をつけて下さい。朝、もしくは夕方が身体にも優しいです。
Commented by ありま秀丞 at 2013-07-26 14:01 x
先日、6x7持って京都の鞍馬山へ行ったのですが…機材選びとしては大失敗。杖ついて登るような急斜面ばかりで体ボロボロ。でもいい写真が撮れましたw
Commented by shonencamera at 2013-07-27 22:25
お疲れさまの一日だったでしょうが、きっと忘れられない日になるんでしょうね。 全てがうまくいく日とかはそうそうありませんが、もう散々だったよー なんて時のショットにイイのがあれば、何故かすごく思い出になっちゃったりするときがあります。フレクサレットの奈良も良いですね。67の写真もまた楽しみにしております~。
Commented by かんてつ at 2013-11-20 14:37 x
記事、コメント、、読んでいて懐かしくまた嬉しく、涙がでそうになりました。(老年で涙腺がゆるいせいもありますが)
昭和40年代、旭に在籍して、LXに関係していました。
巻き上げフィーリング、、まさに当時の鈴木実部長と浦野さんがこだわったところです。
(因みに浦野さんは、その後社長に就任し、ホヤとの合併時のお家騒動
で追い出されましたが)
Commented by shonencamera at 2013-11-20 22:45
かんてつさんへ
こちらこそ感動と感激で正直慌てています。
とにかく文章とか字じゃ表現足りないくらいびっくりしております。
あのLXを作ってくださった方からコメント頂けるなんて。。。
ホントもったいないくらい光栄です。
あの時代はカメラ戦国時代だったように思いますが、強敵数多の中
余計なモノが無く、足りないモノも無い、飽きないカメラデザイン
あんな素晴らしいカメラを作ってくださって本当にありがとうございます。
みなさんのコメントも読んでくださったとか。
みんなそれぞれのお気に入りのカメラで一喜一憂楽しんで幸せです。
ありがとうございます。
Commented by 下町の職人 at 2014-04-12 13:41 x
はじめまして。
たまたまこのページにたどりつきまして。
私も高校1年の時周りはCanon F-1,NikonF3だって言ってる時にコンパクトボディ、ダイレクト測光、豊富なアクセサリーに惹かれLXを購入しました。
使えば使うほどしっくり来るカメラ。
今でも現役です。
昔ですが、真冬のカナダ、カルガリーの屋外(-25℃、ウインドチル-40℃)という条件のなかでも動いてくれたのには驚きですよ!
モータードライブも動きましたよ。
一緒に持ってたZ-1は10秒で液晶が消えました。(笑)
LX、いいカメラです。
Commented by shonencamera at 2014-04-14 09:07
下町の職人さんへ
こちらこそはじめまして、たまたまお越しくださり読んでくださったそうでありがとうございます。LXはどんな条件でも健気に、当たり前のように動いてくれますよね。カナダとかにも連れてってもらえて幸せなカメラですね。LXパンフにもありましたが霜LXみたいな冷凍庫みたいな状態でも稼働とうたっておりましたね。過酷な中での確実動作が誇りのようなそんな時代で、そして確実にそれをこなす量産機はペンタだけじゃなく、全てのメーカーの誇りでした。LXとフィルムを今だに愛でる方がいるというのも、心強いことで嬉しくなってしまいます。
Z-1も良いカメラなんですけどね(笑)あの時代にペンタが一生懸命作った、あともーちょっと...(^_^;)というペンタらしいカメラでした。1年に一回くらいしか出しませんがたまーに使っては、あのミラーバウンドに苦笑いしながら、コレはコレで良いよなぁ~と感じてます。デジのペンタもまだまだ期待したいですね。ありがとうございました。


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